小塚 康成「深宇宙」

初見した頃は、海辺での潮の満ち引きによる波紋を、砂浜にて独特な設定と手法により フィルムに定着させるユニークな試みに挑戦しており注目させられた。 その波打ち際の浮動し揺れる痕跡を、当時としては斬新な技法である感光乳剤が塗布されたPS版に焼き付けて転写し製版するリトグラフ作品として発表していた。 その作品「海辺にて」は、俯瞰した漂う波の悠久なる自然現象から宇宙や時の流れを感得させられる。 そのイメージを定着している雁皮紙は貴重な風合いと紙肌を持っており、絶妙とゆうべきコラボレーションや交錯を見せながら深い湿潤を漂わせて浮かびあがらせて美しい。

その後、光合成する植物の葉「Leaves」や花弁など、そよぎたなびく柔らかで半透明な自然現象や生命力を持つ形態やテクスチャーの映像をモチーフとしながら、それらの変遷に見られる「深宇宙」とイメージされる作品の数々に引き継がれていく。 そして、度々の北欧ドイツへの訪問や美術大学での研修で立ち会った、深い霧にかすむ樹木の佇まいに開眼し触発させられる。 その静寂で幻想的なイメージによる響きや深宇宙が根源となる作品展開を推し進めており、この洗練された樹林の映像は、バンダイクやカッセルブラウンのピグメントが感得させられる図像となって漂着している。 落葉低木である雁皮による和紙は、手漉きによる温かみと風格ある透過性によって、樹木と交錯しながら重複する表現世界となっており、静謐な風が透過しながら深淵での湿潤なる宇宙空間に引き込まれて麗しく。そして美しい。

原 健
美術家・東京造形大学名誉教授